「おあっ?!ちょ、え、杏姉?!」
「…ア゙?お前、ミツ…ル?」
ものごっつ低い声のトーンで返された返事。杏姉はぱっと俺から離れると、目を擦りながらそっぽを向いた。
「杏姉?」
「―――」
そうだよな。銀ちゃんを心配していたのは、俺達だけじゃない。杏姉も同じなんだ。
押し倒されて汚れた学ランを手で掃い、大きく深呼吸をしてから杏姉に近付く。
「杏姉ひさしぶり。銀ちゃ…」
「いいよ、入りな」
全てを言い終わる前に、言いたい事は伝わったらしい。杏姉はくるりと体を反転させ、小さく微笑んだ。
「元気そうだね、充」
銀ちゃんも、杏姉も。
あの頃と何一つ変わらない笑顔で俺を見てくれる。それが無性に嬉しくて、何だか泣きそうになってしまった。
そして、そのテンションのままで。照れ隠しを込めて、二人を紹介しようと口を開いた俺。が、そもそもの間違いでしたよねほんとスンマッセン。合掌。
「杏姉、こっちのハゲが鳥海爽で、こっちのカマっ子が三嶋要!みんな、銀ちゃんっ、のオオオォ?!」
いやいや、確かにちょっと調子にのった感はあるけどもね。悪ノリし過ぎた感はあるけどもね。これは酷くね?俺、家の中に入る前に死ぬんじゃね?
「「だああれぇえがーー」」
ギリギリギリギリ…
「ハゲだーー!」
「カマっ子よーー!」
拝啓、お母サマ。
俺の首、ついてますか?何か、去年死んだジッちゃんが笑顔で手招きしてるんだけど。



