◆◆◆

椎名瑞樹から語られる出来事は、まるで絵空事の様で。

「そんな、嘘よ…」

銀ちゃんを抑えていた要が両の腕をだらんと下ろす。爽は、よろりと一歩後退した。

「嘘やない。全部ホンマの事やで?お前らが慕ってるコイツは、女一人も守れん情けない奴なんや!それと、可哀相やけど利用されとる事には気がついてないんか?」


ぽたり、ぽたり、

銀ちゃんの拳から血が落ちる


「お前らは強さを求めて、最強を求めてコイツに着いとったんやろ?やけど違う。コイツはそんな事を望んでない」

銀ちゃんが割った窓ガラスの隣を殴る椎名。ぽたり、ぽたり、同じく鮮血が溢れ出す。

「自分が描いとる軟弱な夢を実現する為に、その為に伸し上がり易くなる様に、より強い奴を取り込んで利用しとったんやで?」


違う、違うよ、

銀ちゃんはそんな奴じゃない


銀ちゃんは誰よりも優しくて、誰よりも綺麗な心を持っている。例え数年離れていたとしても、その事は俺が一番良く知っている。

だから、否定してよ銀ちゃん。


「―――」

空気が、時間が、揺れた気がした。

誰一人動かない。誰一人喋らない。そして、銀ちゃんの言葉は俺をも金縛りに合わせ、言葉を失わせた。