眼帯×CHOCOLATE

重くて、固い、

ガラスの扉を押し開けた。瞬間、身体中に纏わりつく紫煙にアルコールの匂い。そして鋭い視線が、一斉に僕に向けられる。

「なあ~にィ?ボクどうしたの?」

フラフラとしながら近付いてくる女の人。そのキツイ香水の匂いと、煙草の臭いが混ざって噎せ返ってしまった。

「んだよ!ガキかよ!ポリかと思ってソンしたじゃねえか!」
「はは、てか別に悪い事とかしてないし」

それもそうか、と大笑いを始める。そんな異様な空間の中、男の人に女の人、沢山居るけど蝶子ちゃんは居ない。

「ほら、ボクぅ?もっとコワーイ人が出てくる前に帰りなア~」
「―――」

恐くて、言葉が言葉にならない。

膝が笑っていうことを聞いてくれない。じっとりと、嫌な汗が吹き出てくる。でも、


「……ちゃん」
「んー?なあ~にィ?」
「ちょ、蝶子ちゃんは…」

やっとで出た声は、震えて格好の悪いものだった。それに名前を呼ぶだけで精一杯。

でも、僕の言いたかった事は伝わったのだろう。空気が、一瞬で張り詰める。

「アンタ、蝶子の知り合い?」

眉間に皺を作り、女の人は僕の顔をまじまじと見た。何か確かめるように。探るように。

「げ!てかこの子、杏の弟じゃん!“あの”東雲杏の!」
「ハア?!嘘だろ!」

座っていた筈の人達も、次々と立ち上がりこちらへと群がってくる。まるで珍獣の気分。

頭や顔や体を触られ、色んな事を言われていた。けど、僕の耳には届かない。こうしている間も、蝶子ちゃんを見落としていないかと、店内中に目を走らせていたから。