「蝶子ちゃん、その傷…」
「ああ、どーってことないよ!へへへ、銀は本当に優しいね?ンもう大好きー!」
わしゃわしゃと、再び頭を撫でられる。その行為で言えなかった言葉の続き。
『また、彼氏さんの暴力?』
きっと、蝶子ちゃんも聞かれたくなくて。言いたくなくて、自然とこんな風になるんだろうな、と思った。だから僕もなにも言わない。幼い子供のフリをする。
あの人の前になると
蝶子ちゃんは笑えなくなるから
だから、せめて僕と杏姉の前だけでも明るくて、笑顔で居られるような“楽しい場所”にしてあげたいと思っていた。
杏姉は大人になったらわかる気持ちもあるって言っていたけど、本当に解るのだろうか?
僕には一生わからない気がする。いつか、ちゃんと理解出きるのかな?
まるで、蜘蛛の巣に捕えられた蝶のように、身動きが取れなくて罠に嵌っていく。
もがいても、もがいても、抜け出せない地獄。それが、それでも、幸せなの?
「あれぇ蝶じゃん、なーにしてんの?つうか銀!お前はなんで外に居るんだよ!風邪引いたらどーすんだバカ可愛いなボケこの銀ラブ!マイスイートブラザー!」
「杏姉、めちゃくちゃ…」
秋風に流され、揺れるオレンジ色の髪の毛の隙間から見えるのは。
「あははははは!」
いいな、好きだな、可愛いなあ…



