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地元の者ならば。

絶対に近付くことはない曰く付きの廃工場。何故ならこんな噂があるからだ。其処には、恐ろしいモノが住み着いていると。


「椎名さん、どうやって東雲をやるつもりですか?!最近は腕の立つ転校生も仲間に入ったって……ぐッ!」

鳩尾に蹴りを一発。たったそれだけで男は簡単に崩れていく。無様に、地に四肢を打ち付け。

「黙っといた方が自分の為やで。まだ、死にたないやろ?」
「…っ……す、すみませ…ゲホッ…」

薄暗い工場内に響く、悲痛な呻き声。

 
「野々上!」
「仰せのままに、瑞樹」
「…は、優秀なことやな。優秀過ぎてつまらんわ。でも。……ええか、よお聞いとけ!」

少々乱暴な声色を発し、それと共に広げるのは白い学ラン。それを見た周りの者達の顔色は、いっそ清々しい程に青白く変化した。

「し、椎名さん、まさか…」

「ああ。言い訳はせん。俺はアイツに負けてもうた。あんな屈辱は今までに味わった事もない。せやから、全力でブッ潰しにかかるで!今度は絶対に負けへんからな!お前らが、俺についとった事を誇らせたる!」


言葉、声、表情。

それらとは全く異なるしなやかな動作で白く光る学ランに手を通し、くるりと優雅に踵を返せば。その、闇を溶かしたような黒髪と。深紅の瞳がより一層映える姿。




椎名 瑞樹、――出陣。