「………あ、」
思わず声が漏れた。
けれど、俺の声は誰の耳にも届いていないようで。皆の視線は二人に向けられたまま。
それでも、おっとと口に手をあて呼吸を整えた。そして、視線を銀ちゃんへとゆっくり戻す。
銀ちゃん、
チョコレート食べてなかった
いつも、闘いの前に食べていたチョコレート。でも、今日は食べていない。銀ちゃんも正々堂々、本気の真剣勝負をしたいんだ。
数メートル先で、血と汗が飛び散っている。
骨や筋肉のぶつかり合う鈍い音が響き、二人の声が鼓膜を刺激して俺を金縛りにあわせていく。今更、チョコレートを食べろなんて野暮な事、言えっこない。
「――ミツ!」
不意に銀ちゃんに名前を呼ばれ、はっとした。肩で大きく息をきらし、二人は一定の距離を保っている。もう、フラフラだ…
「心配、要らない、から、」
口元の赤を拭い、それと同時に言葉と咥内に溜まっていた血を吐き出す。俺の声、銀ちゃんに届いてた。
「見てろって、言ったろ?」
そう言って銀ちゃんは、信じられないぐらいふわりと優しく微笑み、そして――



