眼帯×CHOCOLATE

 
「銀ちゃん!…と、その他の野郎ども無事か?!」

扉を勢いよく開けて、目に飛び込んできた光景は。そう、これが噂の地獄絵図ってやつ。しかも、段階でいうと最強の阿鼻地獄。


「あっちゃー…」

なぎ倒されている机に椅子、壁に貼られていた絵や習字はビリビリだし、カーテンはレールから外れてぐちゃぐちゃ。

床にはプリントやら教科書やらが散乱し、まるで竜巻でも通り抜けたような悲惨な有り様。窓ガラスが無傷なだけ儲けもんか。

「…せ、先生!充くん来たよ!」
「ホントだ!甲斐~!なんとかしてくれよ」
「東雲マジとまんねえー!」
「アッ!ほらまた…!」

「か、かかか甲斐くん!君は確か東雲くんの幼なじみだったよね?!」

男のくせに情けないツラで情けない声を上げながら俺に擦り寄って来たのは、産休の先生の替わりに赴任してきたばかり新人教諭。まあ、そうな。――ご愁傷様。

俺はわかってますと言わんばかりに手を上下に動かし、この騒動の渦中の人物のもとへと足を進めた。ゆっくりと、気付かれないように。丁寧に、慎重に。


「銀ちゃん、悪りぃ」

鈍く鋭い音で鳩尾に一発。

小さな呻き声を上げ、ぐたりと肩に顔を埋める銀ちゃんをそのまま担いで俺は軽くお辞儀をする。円満退室、円満退室っと。

「んじゃ、お邪魔しやした〜」

ははっ、なんつうか。

みんな、面白いぐらいポカンとした顔だったな。そりゃそうか。まさか、あの泣き虫で天然なエンジェル銀ちゃんが、こんな事になるなんて思ってもみなかったでしょーよ。


「甘めえ匂い…」

銀ちゃんを運びながら、どこからともなく鼻についた親しみの深い香りに。

俺は堪らず苦笑した。