眼帯×CHOCOLATE

俺は、先輩に勝った。

本当に勝負は一瞬で、俺の竹刀が先輩の面に届いたんだ。そして先輩の竹刀は、僅かに俺の面を外れて肩に落ちた。


『負けちゃったか』

そう呟いた先輩の瞳には俺が映っていたけれど、どこか遠くを見ていた気がする。そして、先輩は約束をしてくれた。

『瑞樹は僕がちゃんと説得しておくよ。有難う、甲斐君』

ああ、きっと先輩が見ていたものは。




 
「……なあ、充」
「んあー?」
「なーんで父さんを呼んだんだ?恵君と知り合いってーのも知らなかったみたいだし」

家まで後僅かとなった所で、不意に親父に問われた。俺は足を止め、一呼吸置く。

「単純に親父の腕を認めてんのと、剣道での師匠として尊敬してっから、……後」
「あと?」

耐えきれず、顔を伏せる。

「俺さ、親父が見てくれてる試合で負けた事ねーんだよ。だから、その…」

ぶっきらぼうに言葉を吐き出す俺に、親父は何故かプルプルと震えていて。あ、なにこの嫌な流れ。なにのこの嫌な予感。

「みいいいぃつううううるぅぅう!ちょ、この子なんなの!可愛すぎるんですけど!愛おしいんですけど!母さん?!母さああああん!充がああああ!」
「近所迷惑だろうがこンの糞親父!」

こんな日常はいつ振りだろう?

ここ最近は、辛く重かった。けれど、これから先はずっとこんな感じだと良いな。俺達も、先輩達も。そして、それにはやっぱり。


「銀ちゃん、後は頼んだよ」

俺の小さく細やかなバトンは、想いは。夜風に乗って、届くだろうか。

さあ、本当の勝負は此処からだ。