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「長い話をお粗末様でした」

先輩はにこっと微笑んで、冷めてしまったお茶を口に含んだ。そして手際よく眼鏡を掛け、レンズ越しに俺を見つめる。

「何だか、複雑そうな顔だね?」
「―――」

何も、言えなかった。

だって先輩から語られた話は、あまりにも辛い。それは、勿論二人の境遇とかそういったものではなくて。

あの椎名瑞樹が、銀ちゃんと同じ事を考えていたって事が辛くて堪らない。

どうして同じ夢を持っている二人が、いがみ合わなければならないんだろう?被害者と加害者だから?いや、そうじゃない。


「ねえ、キミは瑞樹の事をどんな風に聞いてるの?」
「…え」

くいと眼鏡を押し上げ、先輩は頬杖をつく。

「東雲君の事を抜いたとしても、嫌な噂しか聞いてないでしょ?」

ホント、何でもお見通しってね。

要や爽、他の奴等から聞いた噂話は、そりゃあ酷いものだった。耳を塞ぎたくなるようなもの、嘘じゃないのかと疑いたくなるようなもの。

あちこち様々。


「まあ、信じるか信じないかはキミ次第だけど。瑞樹は酷い奴じゃないよ。…喧嘩を沢山しているっていうのは事実だけどね」

オーバー気味なリアクションを取りながら、先輩は笑う。俺はそれを黙って聞く事しか出来なかった。