「気にしていないなら良いんだよっ! 変な事しちゃって悪かったね。うん、じゃあもう用はないからこれで」


そう言って慌てて部屋に戻ろうとするあたし。

ベタな漫画だと此処であたしは引き止められて、桜太君は何かあたしを戸惑わせるような言葉を言うか、行動を起こすかする。

そんな事、起こりっこない。だってこれは玄一さんの存在を除けば現実世界だから。


「佐宗」


え?何、引き止められちゃったよ。あたしってば。何、何を言う気なの桜太君ってば。

漫画みたいな事って本当に起こるんだねえ……凄いと言うかなんと言うか。


「な、何?」

「あの時は、その……有難う」


桜太君がどんな顔をしてその言葉を言っているのかは分からない。

だってあたしの視界には今は扉しか映っていないから。