彼女は僕に気付いたのか、ピタリと歌うのを止めた。 「こんにちは」 投げられた言葉に、僕は戸惑いながら答えた。 「こんにちは……」 彼女はニコッと笑って、ふわりと防波堤から降りると、僕の方までやって来た。 (……裸足?) 何から何まで不思議だ。 「キミ、この町の子じゃないよね?」 この町は小さいから、住んでいる人間も少ない。 だから何年も住んでいて知らない顔なんていないはずだった。 「──わからない。もう、忘れちゃった」 「え?」 彼女の表情は哀しげで、僕はそれ以上、何も訊けなかった。