それは一瞬だけの出来事だったけど、あたしは咄嗟に口元を押さえた。
…何が起こったか、分かってしまった。
「すいません、桃さん。
だけど俺、やっぱり桃さ――」
「――…――………って…」
「え?」
あたしが震えながら発した声は、ひかる君には届いていなかった。
あたしはいつの間にか出て来ていた涙を堪えながら叫んだ。
「…あたしの前から去ってっ―――!!」
ここが道路だろうと、
いくら知らない人に見られてコソコソ噂されようと、
今のあたしには関係なかった。
ただ、悔しい。
それだけであたしはひかる君を睨み付けていた。
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