姫の表情はいつにも増して穏やかだった。


それは真白が見た事ないほどに。


だから思わず思考が停止した真白。


理由は姫の事が好きだからという単純なもの。


好きな人が別の誰かを気にしている。


それは辛く悲しい事。


「相手の名前は?」

「それが、聞いてないんですよ」

「なのに渡したの?」


静かに頷く。


見ず知らずの誰かに。


名前も判らない。


会える保証なんて何処にもないのに。


「…そいつと何処で会ったの」

「如何してですか?」

「いいから教えろ!!」


その荒々しい言い方に姫はたじろいだ。


いつもの真白じゃない。


優しくて頼りがいのある真白がいなくなっていた。


いたのはかつての彼。