亜吸血種の歴史は、吸血鬼に比べて浅い。

せいぜいまだ二百年程度のものだろう。

だが稀有な存在だけに、実に珍しい能力を持つ者の話は枚挙に暇がない。

その一つが『堕蓮の心臓』。

その由来は、今は既に滅びた亜吸血種の血族、『堕蓮』。

身体能力的にはそこらの無名の亜吸血種と然程変わらなかった堕蓮。

しかし彼らの特異な点は、むしろ肉体そのものではなく内臓にあった。

人間とほぼ同じ機能を持つ亜吸血種の内臓。

だけど堕蓮の持つ心臓だけは違った。

彼らの心臓は、並みの亜吸血種の何倍もの血量、血流、血圧だったのだ。

心臓はいわば車のエンジン。

出力が高ければ高いほど、大きな力を生み出す事ができる。

たとえ特殊な能力がなくとも、その心臓さえあれば基本的な身体能力だけで名門亜吸血種を凌駕する事が出来たのだ。