梓に両腕両脚を切断されて追い詰められた時、私は何故ああもあっさりと敗北を認める事ができたのだろう。

梓に背負われ、無人となった野須平家の長い廊下を進みながら思う。

…あの後、梓は自ら切断した私の手足を繋ぎ合わせ、それでも動けるようになるまで時間の必要な私を背負った。

自分だって骨まで露出した両腕がようやく形だけ再生したばかりで、女一人を持ち上げるのには相当な苦痛が伴うだろうに。

それでも自ら、私を背負う事を申し出てくれた。

…あの時私を殺せば、梓は全ての状況を覆す事ができた。

私の狗に甘んじる事も、出碧の血族に渡蘭市を牛耳られる事も、杖縁家が没落していく事も、全て逆転する事ができた。

あの最後の最後になって私を裏切る、あの作戦は見事という他はなかった。