南国特有の湿気の強い空気が体にまとわりつく。

真夜中になってもその熱気は冷める事なく、私の体をいつまでも覆い尽くしていた。

この熱は気温のせいか。

それとも、今しがたまで狂乱にその身を委ねていたせいか。

「…いい月」

雲ひとつない夜空。

天空に一際大きく光り輝く、穢れなき満月を見上げる。

…月は人の心を狂わせる。

そんな話を聞いた事がある。

誰の言葉か知らないが、それは間違いだ。

それは月を理由にしているだけ。

人間は元々狂っている。

満月だろうと新月だろうと。

闇夜だろうと日の光の下だろうと。

人間はいつでも狂っている。

たやすく狂乱に走る。

そんな生き物だ。