どうにか笑顔を作ると、教科書類を脇に抱えて、俺は教室を出た。 廊下の窓は、全開だった。 五月蝿いせみの声が、俺の耳を突き刺す。 ・・・この間までは、数匹程度しか聞こえなかったのに。 今は、何十匹ものせみの声が聞こえてくる。 そう・・・亜姫にキスしたあの日は、せみの声がようやく聞こえだしたくらいだった。 あの日の亜姫の顔が、脳裏に浮かぶ。 輝いていた顔。 そして・・・苦しそうな、顔。