無い物ねだり

「だったら俺を『一成』って呼べ」
私はフゥとため息をついた。そして新山の背中にしっかりと腕を回すと小首をかしげニラんだ。
「イヤ」
「だったら百万回キスするぞ。それでもいいのか?」
「いいわ。その勝負、受けて立つわ」
私は目を閉じた。キスされるのはわかっているのに、やっぱりドキドキした。
 とたん、新山の唇がフワリと私の唇に触れた。甘い衝撃が全身を駆け抜け、脳がとろけてしまいそうだった。なぜなら彼の唇は思っていたより柔らかくて暖かかった。サッカーで鍛えた体を持つ新山は、唇も鋼鉄のように固いと思っていたのに。そのギャップにすっかりやられてしまった。
 新山は一度唇を離すと、私の気持ちをあおるよう言った。
「イヤだって言ったから、キス百万回な」
「授業に間に合わないわよ」
「しょうがないだろ。涼がききわけないから」
私は不敵にニヤリと笑うと再び目を閉じ、新山のお仕置きを受けた。とても甘美なお仕置きを。
 ただ長いキスの間、一瞬だが父と母の事を考えた。
 父と母が私をクールな子として生んでくれなければ、新山に気に入ってもらえなかった。普通のかわいくておしゃべりが上手な女の子に生んだなら、好きになってもらえなかった。 
 父と母には、心から『ありがとう』と言いたい。
(でも、人って本当に無い物ねだりするのが好きだよね。だから世界が発展するのだろうけど…一つ手に入るともっと欲しくなっちゃう!)
人の欲は尽きない物である。

                         
                                   END