なんか小さい子をいじめてる大人みたいな図になってる。
俺はこういう拗ねた顔には滅法弱い。


「……仕方ないな…。
すごい下手でも怒んなよ。」

「怒らないよ。」


仕方ないから俺は半ば覚悟を決めてピアノの前に座った。
弾くことの出来る曲は決まってる。今の俺の唯一弾ける曲…。


俺はゆっくりとピアノの鍵盤に指を置いた。


紀紗の視線をものすごく感じる…
余計緊張してきた…。



* * *

  

「なんで別れの曲?
それにミス多すぎ。」

「……反論出来ません…。」


お前が真面目に聴きすぎているからだよ…って言ってやりたくなったけど、そこはさすがに我慢した。
最近練習して弾けるようになったはずのショパンの『別れの曲』。
なのに…それさえも紀紗の前では上手く弾くことが出来ない。
情けなさもひとしおだ。