どちらからともなく、カウンター席に腰掛ける。
ぽつりぽつりと、月が話し始めた。
「亜龍の実家に行ってきた」
淡々と亜龍の名を口にする月の顔には、もう憎しみの感情は窺えなかった。
「謝罪を、して来たんだ」
聞けば、実家には両親のみが住んでおり、亜龍の兄を殺したことを、彼らに詫びてきたのだという。
勿論、彼らにとっては可愛い息子であり、命を奪った月を許しはしなかった。
だから、許して貰えるまで、毎日通いつめたのだという。
「妹に暴行したのは許せないけれど、
亜龍から見れば俺が兄貴を殺したのだって許せないことだ。
両親たちにしたって、息子を殺されたことは許せないことだ」
そう言った月の青っぽい瞳は、静かに私を捉えていた。



