月が、ゆっくりと私の方へ歩み寄ってくる。 そしてもう一度、 「ただいま、明日香」 と言った。 そして、そっと私に手を伸ばし、サラリと一房の髪に触れた。 「伸びたな、髪」 「うん……」 何も言葉が出てこなくて、私にはそれが精一杯だった。 今何か言ったら、涙がこぼれそうで。 でも、頷いても涙がこぼれそうで。 だから私は、ありったけの力を込めて、月を見つめた。