右手に宮殿のような建物があった。

あれがベルサイユ宮殿だろうか?

そう考える間もなく、いつしか睡魔が僕を包んでいた。

肩にシロナの体温を感じた。かと思うと、すぐに静かな寝息が聞こえてきた。

「やれやれ」

と僕は独りごち、瞼を閉じた。

ロンドンの風は柔らかく、日本のような蒸し暑さはまるで感じられなかった。

睡魔に浸食されていく意識の中で、僕は絵はがきの「彼女」のことを考えていた。

「彼女」はいったい誰なのか?

そもそも実在するのだろうか?

実在したとして、本当にそれは早紀と何らかの関わりがある人物なのだろうか?

あるいは……本人?

だけど早紀は死んだのだ。そんな馬鹿げた話があるはずがない。

僕の思考は堂々巡りを繰り返した。

それは、初めて「彼女」から絵はがきが届いて以来、もう何度も繰り返してきた無限ループだった。