来客はいつも突然やってきた。

彼女はいとも簡単に僕の世界に現われては、まるで何事もなかったかのように僕の記憶をすり抜けていくのだ。

「紅茶でも淹れようか」と僕は訊ねた。

「そうね」と彼女は言った。

僕は小さく肩をすくめ、シロナのカップにダージリンを足した。

"シロナ"というのはクジラの名前だ。

僕が名づけた。

シロナガスクジラのシロナ。我ながらセンスの無さに呆れたが、彼女はわりと気に入ったようだった。

そもそもシロナは知っているはずだった。

「彼女」の居場所を。

なぜなら、どこかの街のどこかの雑貨屋でシロナの絵はがきを買い、それを僕に送り付けたのが「彼女」なのだから。

なのにシロナは知らないと言った。

「本当に知らないのよ」

シロナはそう言って、僕が淹れた紅茶を一口飲んだ。