紺色の海、緋色の空

「あの日、保健室のベッドに押し倒された早紀に覆い被さった男の頭に、僕は椅子を叩きつけた」

僕はジェシカの指先を見つめ、蘇った記憶を確かめるように過去をトレースした。

「憎かった。それ以上に僕は、僕に見せたことのない姿で快楽と憎悪の狭間を揺れ動いている早紀に苛立ち、逆上したんだ」

だから殺した。

早紀ではなく、僕にそんな早紀の姿を見せつけた男を。

「……そうだろ？」

と僕はジェシカに尋ねた。

なぜなら、少女はすべてを知っているはずだったから。

ジェシカは黙っていた。

真っ白なワンピースを着た少女の背後を、黒々としたイトマキエイが両翼を広げて泳ぎ抜けていく。

遠くでクジラの残響が聞こえた。

いつかの夢で聞いた、氷山の奥、深海流に乗ったクジラの歌声。