とにかくそれが始まりだった。

結論から言えば、声の主はやはり―というべきか分からないが―バクだった。

「壊れているネ」

いつだったか僕の夢の中に現れたバクは、僕のコンパスを空に掲げてそう言った。まるで古い友人に話しかける時計店のおじさんのような口調だった。

「まあね」と僕が答えると、バクは眠そうな目で僕を見た。

「直さないのかい」

「もう直らないんだ」

「ふーん」

バクは長い鼻をひくつかせてコンパスを眺めていたが、やがて飽きた様子でそれを僕に投げてよこした。

「直るサ」

「無理だろ」

「君次第だネ」

夢なのか、現実なのか。それからも時々彼は僕の前に現れた。

そのつど僕は絵はがきの送り主のことを訊ねてみた。

彼は絵はがきの送り主を「彼女」と呼んでいたが、それ以上のことは何も話してはくれなかった。