「あなた達、これからスコットランドに行くのよね?」

「ええ」

「ならその服装はいけないわ」

「どうして?」

シロナが首を傾けた。

「あそこは寒い土地よ。そのままでは風邪をひいてしまうわ」

「そんなに?」

「駅に着くまでに必ず長袖の上着を買っておくことね」

と老婦人は微笑んだ。

「ありがとう。そうします」

僕は老婦人に微笑み返し、ホテルの扉を押し開けた。


扉が閉まる直前――

ロビーに咲くヒースの花と、その向こうで手を振る老婦人の顔が、朝の日差しの中で輝いて見えた。