坂が終わると田畑、牧草地などの農耕地帯が広がるなだらかな平地が姿を現す。

誰がつけたのか、この『リッチアップヒル(裕福な者が上る坂)』の仰々しい名前に相応しく、坂の上の方から順にベルア時代からの裕福な名家がズラリと軒並みを揃えている。


どの時代も、金持ちが人より高い場所を目指すのは変わらないのだ。


そして必然的に下に行けば行くほど建物はみすぼらしくなり、懐具合も寂しい一般人から農民へとなっていく。


でもって、ぼくが帰る家はその極端に最も近い。

なにせ家のすぐ裏がこの街名物の巨大な壁(バリケード)っていうとんでもなく迷物件だ。

おかげで午後になると全く日が当たらず、暗いったらありゃしねぇ。まったく!


別に家がとりわけ貧乏って訳じゃなくて、なんかあの偏屈ジジイの意見……というか独断で決まった場所らしい。

おふくろもアイツも一言も文句を言わなかったっていうんだから、ますますあのジジイは人を操れる仙人かなんかの類なんじゃないかと最近思う。


そんな事を考えてる間に、でっかい壁の影―――曰わく“昼夜の境界”を越えていた。

つまりは夕陽に照らされて伸びる壁の影に入った場所から、早めの夜って話だ。


まあ結局は日陰なだけだからそこまで暗くはならないし、困るのは早くも日光を失った哀れな農作物ぐらいで、ぼくには関係ない話だが。


影。


その夜の闇とはまた違った色合いの暗さは、日の暖かさとは相反して、冷たく人の奥底に眠る不安を掻き立てる。