目を点に、茫然としているカナの横をすり抜け、ぼく達は工房へむかう。

「お前……何のつもりだよ」

「あら、よかったじゃない、こんな美人の彼女ができて」

自分で自覚してるし。

「とぼけんな。アッパー・ランナーズのクルーがうちまでついて来て、一体何の利がある? うちにゃ、あんたらが狙うような物なんて……」

「神無月の巫女」

突然彼女はそう言って歩みを止める。

ゴーグルを外しているのでおでこに掛かる前髪を鬱陶しそうに払いのけて続けた。

「『神無月の巫女、幻想の翼を地に堕ちた盲目の天使に与え、蒼空の頂へと導く』」

「カンナヅキ? ソウクウ? 一体何の話だ」

「占い。正確には占星術というものらしいけど、それはどうでもいいわ。とある暇な占術師が暇つぶしに行った、迷惑極まりない予言の話よ」

やっぱり今のは忘れて、と彼女は、今度はぼくの先を歩き出す。

忘れてと言われても、異邦語に長けてるとはお世辞でも言えないぼくじゃ、彼女の話す言葉の意味はちんぷんかんぷんだったのだけれど。

「結局、何だってうちに来たんだよ。……一家丸ごと皆殺しとか言わないよな?」

「まさか!ランナーズは無闇やたらと殺戮行為はしないわよ」

じゃあぼくを殺そうとしたのは何だ!と叫ぶと、

「あら、勘違いしないで欲しいわね。私達は一つの正解であって、決して大衆が認めるような正義ではないんだから」

だから水が漏れたならそこに栓をしなきゃ、と彼女は冷たい笑顔を向けてきた。

「あなたが今生きていられるのは、単により重要な、優先すべき懸案が見つかったからよ」

「さいですか……」

いや待てよ、優先すべき懸案があると言うこの女が行こうとしてるのは―――。

「幻想の翼なんて、文字通り幻じみた代物を作れる人間が、一体この世界にどれほどの数いると思うのかしら?」

それはぼくに向けられた言葉じゃない。

『工房』。その二文字の書かれた扉に、彼女は手を掛ける。

ギギィー……。