『要塞都市カルガンチュア―――


見上げる首が痛くなる程の高さと、砲弾を受けてもびくともしない堅牢さを誇る巨大な壁に街全体をぐるりと囲まれた地上都市。

要塞の名は伊達じゃなく、砂塵吹き荒ぶ荒野の真ん中に造られたこの街は建都以来数百年もの間、陸路からの侵入を許したことが無い。

それもそのはず、円形状にそそり立つ壁には出入りするための開口部がないのだ。

そう、この街に出入りするには、地空国際連盟で定められた空路を使うしかないのである。

『難攻不落の要塞』と呼ばれる所以はそこにある。


一番高い街の中心―――今は廃棄された採掘場跡から放射状に外に向かうにつれて、飛空場、オフィス街、そして段々畑のように斜面に連なる家々が見えてくる。

豪華絢爛な屋根飾りと、太陽を反射する真っ白な外壁は貴族の証。

区画毎に整地されたその住宅は、統一された美しい街並みを生み出している。

さらになだらかに下る街路を降りていくと』


パタン!

「はぁ、つまんねぇーの」


ぼくはため息をつき、露天からちょろまかした雑誌の特集ページを閉じると一瞬躊躇した後、街路脇のゴミ箱へそれを投げ捨てた。

……入らなかったが、今はいい子ぶってゴミを入れ直すような気分じゃない。


“要塞”ねぇ?ははっ!そりゃあお高くとまった貴族サマサマには安心な巣箱だろうさ。

だが、ぼくらにとっちゃこの街は“監獄”でしかない。


『この街に生まれると、貧乏人は一生外には出られない。翼があるうちも、翼が無くなろうとも』


とはこの街でよく言われることわざみたいなものだ。

所詮金のない“坂の下の民”には、ここは飛べぬ空を思い続けるだけの鳥籠なのさ。


そう、ぼく、ルーク=スウェルの人生も、一生この狭い鳥籠の中で終わる……はずだった。