「ちょっと!なんで教えてくれなかったのよ」

鬼の形相を作って、笑っている3人を睨みつけてみたものの、うまくいったとは思えなかった。

なにせ怒りより“この”自分が気づかない程の手際でポケットから財布を抜き取られた事実、その驚きの方が上回っていた。


ノーフェイスはいつもの仮面のような出来すぎた笑顔を浮かべながら両手を上げ、お手上げのポーズをしてみせた。

冬夏と春秋の姉弟もそれに習う。


「だって面白いから」

『からー!』

「うっさい!」


ノーフェイス(この男)といると、いつも不必要な苛立ちに苛(さいな)まれる。

はぁ……このままいくと、この双子の姉弟の行く末にも一抹の不安が残るわ。


「ともかく」一息ついて真面目な顔を引き戻す。

「あの財布には、あんたらにあげるはずだった小遣いも入って―――」

「マジか!?」


突然ノーフェイスが銀髪を振り乱しながら猛り立って、驚いたように見つめてきた。

双子も、いつもは細い双眼をまん丸に見開いている。


「マジ。このままじゃ今回のお小遣いは無しね。それにカルガンチュアの“偽装”存在証明書(アリバイパス)も一緒だったから―――」


この国は買い物をするにも宿をとるにも『アリバイパス』なる証明書が必要で、それが無くなったなら―――


「今日は晩ご飯抜きの野宿ね」

「よーし、あのガキを探すぞ!すぐにだ!」


言うが早いか、ノーフェイスはいつもの仮面のような笑顔を貼り付け、後ろにあるオブジェ―――大小様々な歯車やネジ、それに鈍色に光る金属の合板の集合体―――にヒラリと飛び乗った。

冬夏と秋春がそれに続いて人の背の二倍程のそれによじ登る。


「『四季』に頼るのはこの国では避けたかったんだけど……仕方ないか」

言葉とは裏腹に、金属の塊へ向かう足取りは弾む。