「ああぁーー!!」

良く響く澄んだ叫び声が、茶褐色の荒野に響き渡った。驚いた黒斑模様の蛇が、シューシュー唸り声をあげながら巣穴に逃げ込んでいった。


「無い!無い!『私』の財布っ!!ずっとポケットに入れてたはずなのに」

つなぎを上から下まで叩いて探るが、あの硬貨が詰まった独特のなめし革の袋の膨らみが当たる触感は得られない。

ハンチングの中までまで見てみたものの、そんな所にあるはずもなく、纏めて束ねていた流れるような漆黒の長い髪がパサリと背中に垂れた。


「ぷ。はっははは!」

ならば服の中か!と、つなぎのジッパーを降ろしかけたところで大声で笑う声が背後から聞こえた。

「……なんだよノーフェイス」

「年頃の“娘”が、いくら知った顔とはいえいきなり脱ぎ出すもんじゃねぇぜ?なぁ?」

『うん、そうだね』


平べったい岩に腰を下ろして水を飲みながら、その銀髪の男、ノーフェイスは楽しそうに笑っていた。

その両隣には、まだ十にも満たないだろう年端もいかない双子……冬夏(トウカ)と春秋(ハルアキ)が、こちらも口元を抑えながらけたけたと笑っている。

そのさらに後ろには―――


「それにそんなに探したところで見つかりっこねーぞ?」

「なんでよ!」

思わず食ってかかってしまうのは、自分の悪い癖だと分かってる。のに、どうもこの人が相手だと反抗せずにはいられない。

もっともこの、人を小馬鹿にしたような話し方のせいが殆どなんだけれど。


「さっき足引っ掛けてきた奴いたろ?面白いネックレス付けた白いパーカーの」

「ああ、あのムカつくチビ助ね。それが?」

足を引っ掛けられるのなんていったい何年ぶりだったろ。


「そいつにスられたぞ」

「はぁ!?」