それは変わり映えのしない日常風景。

そして、退屈だった一日の終わり。


「ふぁ〜あ……」

ぼくの日課は毎日、こうやって街で一番高い場所―――何年も昔に廃れて放置された鉄橋の残骸―――に座って、焼けた鉄のように真っ赤な夕陽が荒涼とした大地に沈むのを眺めること。

街の中心に位置したそれは、同時に一生出ることの叶わない牢獄のようなこの街の存在を思い出させてくれる。


昔はそれでも、日々移り変わる空を見ていれれば満足できた。


とめどなく風に乗って流れる雲。

音を立てて降り注ぐ豪雨(スコール)の後の茶褐色の大地に掛かる、幾重にも重なり合う虹。

視界からはみ出す程巨大な薄銀色の月と、それに対をなす深紅の太陽。


鉄橋の上からは、自分の生きている場所を忘れるぐらい、自由な空が一望できた。


まぁ、今となってはその空さえ見飽きそうだが。


ゴーン……ゴーン……

時を刻む鐘の音が街に響く。

「っと、そろそろ戻んねぇとジジイがうるせぇな」


ぼくも今年でもう18。

卒業証書は肩から襷(たすき)に下げた鞄の中だ。


立ち上がって僅かに制服に付いた赤錆を落とし、燃える夕陽に背を向ける。

「うし!帰ろう」


明日からは楽しい楽しい春休みだ。