10時を回った頃だった。
俺の耳に入ってきた声。
「花帆?あ・・・・・・ごめん」
きっと俺以外誰も聞いていない。
俺だけに聞こえた声。
声の主はさっきの山田さんだった。
携帯電話で話している。
その相手・・・・・・
まさか、花帆?
俺は、ばかだと思うけど、大勢の人のいる前で山田さんの腕をつかんで、店の外へ出た。
「ちょっと・・・・・・どうしたの?」
山田さんは、俺が近付いた時に電話を切ったようだ。
「真剣な話があるんだけど、ちょっといい?」
「う、うん」
店の前には、店で働く人の物であろうバイクが置かれていた。
俺はそのバイクにもたれかかり、タバコに火をつけた。
「花帆って知ってる?」
俺が花帆の名前を出すと、山田さんは明らかに表情を変え、俺から目をそらした。
俺が吐き出した煙は、店から出る焼き鳥の匂いと混ざり合いながら夜空へと消えていく。

