目の前に立ってるコイツが、こんなこと言うなんて信じられなくて、俺は何も言うべき言葉が思い浮かばなかった。

ちらり、隣にいるライの様子を見ると、ショックを受けたように目を見開いて、唇を噛んでいる。
その腕が、小刻みに震えてるのが見て取れて。

キレる、かな?

そう心配になった瞬間。

予想外にも、動いたのはライの拳、じゃなくて唇だった。

「サイト、テメェ今、自分が何言ったのか分かってんのかよ?!仮にもオマエ、ちょっと前まで自分もいたバンドだぞ?!それを否定してんだぞ?!分かってんのか?!」

「わかってるよ。だからこそ、だ」

憤るライの様子を気にする風でもなく、彩都は即答する。その瞳は、特になんの感情も浮かべず冷たいままだ。

「………っ!!」

ライが声にならない怒りを、手のひらに込めた。拳が、握り締めすぎて血管を浮き上がらせている。

「ライ!!止めろって!手が……」

「悔しいんだ?」

俺の声を遮るように漏らされた呟きに振り返れば、蔑むような笑みを唇の端に浮かべた彩都が、こっちを見てた。