ステージ袖。俺たちはザワザワと騒がしいライブハウスの空気を感じながら、スタンバイしていた。
今日はサポートドラマーの斎藤ってヤツもいて、ステージにあがるのは4人。
斎藤のドラムは正確だ。正確過ぎて、時々嫌になるけど。
「今日、頼むな、斎藤」
「はい!頑張ります!」
人懐っこい笑顔を見せる斎藤の背中を軽く小突いて、俺は深呼吸を一つ。
彩都はこの会場に現れるだろうか?
俺たちの音楽を聴いて、大丈夫なのか?
そんなことをモヤモヤと考えながら、すぐ横で水を飲んでるライに目を向けた。
目にかかりそうだった前髪をいくつかに分け、捻ってピンで留めた髪型が似合っている。
形の良い額の下、何かを決意したような意志の強い瞳が、真っ直ぐに薄暗いステージを睨んでた。
「ライ……歌えるか?」
話しかけると、その瞳を正面に向けたまま、ライは口を開いた。
「当たり前」
「無理は――」
「してない」
「なら安心だ」
ふん、とライが笑うように鼻を鳴らした。
やっぱり、吹っ切れてる。



