櫻井は窓の外を指差す。
「あれ!歌夜ちゃんじゃないですか?!」
は?
一瞬誰のことだか分からなかった俺の隣で、ライが張り付くように窓ガラスに顔をくっつけてる。
見れば確かに歩道を歩いてる歌夜の姿があった。
「おお!マジか!!おい櫻井ちょっとだけ停めろ!!」
「え、でも時間が…」
「5分で済むから!」
言うが早いか、櫻井が車を停めるのが早いか、ぐらいの勢いで車を降りて歌夜に走り寄っていくライの後ろ姿を見やってから。
「さーくーらーいー、何故お前には空気が読めない!?」
「へ?ええっ?!タキさんなんで怒ってるんですか?!」
「てめぇのせいだよ!てめぇの!!ったく、タイミング逃したじゃねぇか」
俺は櫻井の後頭部に拳骨を一発ぶち込んで、シートにもたれかかった。
……くっそ、気分が削がれた。
しょんぼりと肩を落とす運転席の櫻井が、申し訳なさそうに謝ってきた。
「……もういいよ、怒ってないから」
そう言ってやる。限りなく嘘に近いけど。



