……――あっという間に一曲弾き終えた時には、久々の高揚感と爽快感が俺の体を支配していた。
もっと弾きたい。
そんな思いが頭の奥で浮かんだ。
「次は?」
無意識に海斗に問いかけている俺がいた。
その問いに海斗が答えようとした時、不意にその瞳が俺を通り越して背後へ向けられた。
「あ、紅志!やっと来た~!」
その満面の笑みが向けられた方へ振り返った俺の視線の先。
呆れたような表情を見せる紅志が腕を組んで立っていた。
その瞳が心なしか冷たく光る。
牽制、されたような気が、した。
「悪い、バイト30分延びてさ」
「いいよ、代わりにタッキーが通りかかったから誘ってみた。タッキーありがとね!」
屈託なく笑う海斗に俺も少しだけ笑って返した。
「いや、いいよ。俺も久しぶりに面白かったし」
「マジで?良かった~、またやってよ!今度は紅志も一緒にさ!」
そうだな、なんて適当に相槌を打っていながら、心の中では別のことを考えていた。
二度とやらねぇ、コイツとは。
二度と、やれない、やったら……引きずられるの、目に見えてる。



