VOICE・2



雑踏の中、掻き分けるように伸びるクリアボイスがはっきりと聞こえる頃には、その声の主が誰なのか確信していた。

こんな声出すヤツ……他に知らない。
いるわけ、ない。



海斗以外に。



こんな時、他人よりも少しだけ高い自分の身長に感謝する。集まる人垣の向こう、俺の目にははっきりとその姿が映った。

アコースティック・ギターを抱え、伸びやかな歌声を響かせ歌う海斗の姿。
たった一人で路上ライブをしていた。

……やっぱり、めちゃくちゃ楽しそうに歌いやがる。

思わずその姿に目を奪われている俺の耳に、周りの女達の声が聞こえてきた。

――あれって確かさぁ…。
――バンドやってる人だよね?見たことある!

インディーズとはいえ人気バンド。やっぱり知ってる奴はいるらしい。

まぁな~この声は一回聞いたら忘れらんないだろうしなぁ…。

な~んて、周りの反応を眺め楽しんでた俺。





まさか数分後。暢気に海斗の歌を聴いていたことを、すっげえ後悔することになるなんて……。