流行りの歌に、痛みとか夢とかそういうものを重ねてみたりして。

 それで満たされた気になってはまた、なんてことない失敗に落ち込んだりして。

 青春。

 その他愛ないひとことは、幼い頃は気恥ずかしく。

 大人になってしまったと感じる頃には甘酸っぱく。

 無為な時を尊く愛おしく感じる頃には木洩れ日のようにまばゆくそしてあたたかい。

「ねぇ、おかあさん」

 それらは例えるならば、

「なあに?」

 そう――いわし雲。

「おじいちゃん、笑ってるね」

 小さな雲の集まりであるそれは、ひとつひとつは形は違うけれど、

「そうね」

 大きな目で見ればひとつの雲。

「なにかたのしいゆめでもみてるのかなぁ?」

 まるで人生のようだ。

「ふふふ。そうかもしれないし、もしかしたら……」

 だから私は空を見上げ、それを眺める度に空想してきた。

「もしかしたら?」

 今日は誰の人生がそこに浮かんでいるのだろうかと。

「もしかしたら、何か面白いお話でも思いついたのかも。おじいちゃん、作家さんだったから」

 誰かの人生に想いを馳せる。

 ゆえに私は生きながらにして幾つもの、様々な人生を体験することが出来た。

 もしも今の人生に疲れたならば見上げてみるといい。

 そこには無数の人生があり、キミの心はすべてからひととき、解き放たれる。

 無論、しばしの遊覧の後にはまた現実の自分へと引き戻されるだろう。

 しかし、良き人生とはしばしば良き休息が必要なものだ。

「どんなおはなし、うかんだんだろうね?」

「そうね。もし聞いてみたかったらいわし雲を見上げてみるといいわよ?」

「いわしぐも?」

「うん。おじいちゃん、今度からはそこでお昼寝するんだって」

「そっかぁ。うん! わかった!」

 キミの頭上にはどんな人生が、物語が浮かんでいるだろうか。

 見上げてごらん。

 俯いてばかりではなく。

 見上げてごらん。

 そしてもし、そこに私がいたならば――キミの話も、聞かせてもらえないだろうか。



「ほら。じゃあおじいちゃんに「またね」ってして」

「うん。おじいちゃん、またね!」