やぁ、申し訳ないね、君も仕事で疲れているだろうに呑みに誘ったりして。いやいや大したことじゃないんだが、ちょっと誰かに愚痴をこぼしたい気分でね。酒の味は落ちてしまうかもしれないけれどまぁ聞いてくれたまえよ。飲み物は何がいいかな? ビールか。そうか。じゃぁ私は熱燗にさせてもらうとしよう。こういうときはコイツに限る。

 さてまぁ本題に入ろう。

 気にするほどのことじゃないのかもしれないがね、まず私が腹を立てているのはだね、ソイツがいかんともしがたいくらい要領が悪いとこなんだ。誰のことかって? いや、それは一応伏せさせてくれたまえ。いやいやいや、何もキミが告げ口するだなんてことは思ってないさ。ただね、どこで誰が聞いているかもわからないだろう? おっと、酒がきたようだ。まぁ乾杯といこうじゃないか。

 うん、うまい。

 例えば、だ。ソイツにある客先へ資料を届けるよう頼むとするだろう? 何も難しいものじゃないんだ。先日までに私がしっかりとそろえておいた資料だ。それなのにソイツはたかだか車で5分とかからない距離に持っていくのに軽く1時間はかける。何をしてたんだと問い詰めればさも当然だといわんばかりの顔で「財布の中が乏しかったんで銀行にお金をおろしにいってました」というんだ。そんなものは届けた後でいいだろう? それで待ちぼうけを喰わされた先方に頭を下げるのは私さ。うん? トイレか? ちょうど私もいきたい所だったんだ。一緒にいこうじゃないか。ん? 個室しかないって? あぁ先に入りたまえよ。私はドアの外で待っているから。

 しかし部下の尻拭いというのは上司の仕事のひとつなのかね。え? ソイツは部下なのかって? おっと、口が滑ったな、ははは。酔いが回ってきたかな。まぁいい。ところで続きなんだが、理解力の悪さも実は気に入らなくてね。何度注意しても注意していることにすら気付かない。先日もそうだ。領収書は3万円以上で印紙を貼れと何度も、かれこれ100片は口にしたのに覚えない。

 あぁ出たか。おっと何だか尿意が引っ込んだな。私も戻るとしよう。ところでどうしたんだ? やけに顔が青ざめているが。水でももらおうか? 帰るにはまだ早いだろう? 明日は休みだ。今晩はじっくりと付き合ってくれたまえよ。

 その脳ミソにしっかり私の言葉が刻まれるまで、な。