手元の携帯が放つ灯りだけが、俺という存在をここに証明している。

 ひと度こいつを閉じてしまえば瞬く間に俺は闇に呑み込まれてしまうことだろう。

 そんな小さな世界の外からは時間が流れる規則的な鼻唄と窓を隔てた向こうでむせび泣く不規則な風の叫び。

 そしてそれに合いの手を打つようにアスファルトを叩く雨。

 それらに耳を澄ませながら、俺はその共演の邪魔をしないようにしずしずと布団に潜り込む。

(明日は何をしようか)

 待ちに待った休日のはずだったが、あれやこれやと考えを巡らせる前に睡魔が寄り添ってきて、そっと手を瞼に。

 抗うつもりなどなく、俺はゆったりと意識を手放し始めた。

 と、そこでふと思う。

 そういえば部屋の灯りを落とす前に観ていたテレビでは明日は良く晴れるといっていた。

(そうだな。明日は布団を干すことにしよう)

 時間は多分に余るだろうがなに、本棚でいい加減足が痺れているまっさらな文庫が山程ある。

 そうだな、彼等も干乾しがてら陽にさらしてやろう。

 そういう休日も悪くない。


 そして今度こそ意識を手放す。

 陽溜まりをたっぷり蓄えた布団の薫りに今から頬をゆるませて。