「頌歌、貴方はもう帰りなさい」 母も、こんな娘を見ていられなくなっていた。 だから、目を覚まさない兄の傍に置いておきたくなかった。 頌歌は黙ったまま、病室を出て行った。 「瑛歌、目を覚ましてよ…じゃないと、頌歌が元に戻らないの…貴方を失えば頌歌も失う。だから…目を覚まして…瑛歌」 母の声は、瑛歌には届かなかった。 そんな母の肩を父は静かに叩く。 コツコツコツ 靴の音。 誰かが病室に近付いてきている。 おそらく、医者なのだろう。 一般の者は此処に来ないから。