何も身を委ねる場所が見当たらない私は、いつも毛嫌いしていた桜の木に身を寄せ、そっと腰を下ろした。


まだ浅い春の夜。

桜の木は、ひんやりとしていたが、何かに包まれている様な安心感があった。


「……何よ……」


それでも私の口は、否定的な感情しか表す事が出来なかった。


素直じゃないのは解っている。

でも、月光すら求めなくなった私が求めた彼がいない。

だから素直になんてなれない。


私が桜の木と一つになれば、彼は私を見つめてくれるだろうか?


私に触れてくれるだろうか?


それならば私は、命を捨て、このくたびれた大樹の一部となりたい。



……と、そんな事に想いを馳せている時だった。