「……で、あんたはこの教室に何しに来たわけ?」
俺が尋ねると、菊池はそばにあったイスを窓際に引き寄せた。
「だってここからが一番、グラウンドがよく見えるんだもん」
そう言って真剣になる菊池の、視線の先には
陸上部のトレーニングに励む、あいつの姿。
親父さんに買ってもらったというスパイクで
他の誰よりも速く、グラウンドを駆ける健吾――…
「………」
時々俺は、健吾を見てハッとする瞬間がある。
急激に伸びた身長
たくましくなった腕
出っ張った喉ぼとけ。
あいつはものすごいスピードで、子どもの殻を破ろうとしているようで。
……小3のあの夜、俺に支えられながら一緒に山道を歩いた健吾は
もういないような気がしてしまうんだ。



