――嫉妬。
――憎悪。
パンドラの箱が開かれたその時から、どんな善人の心にも平等にくすぶっているもの。
そして、その炎を大きくしてやるのが、周囲の役目。
それでも、そんな汚れた感情をうまく隠し、コントロールする術もまた、
大抵の人間は持ち合わせているのだ。
しかし、それを持たない不幸な人間もいる。
それが、有沢知美なのである。
これは、今まで“社会”という閉ざされた輪の中から、逸脱してきた報い――
そしてその過程で、鳴海悠にも脇役としての出番はやってくる。
舞台は佐伯歩だけの一人芝居であり、自分はただの小道具に過ぎないことはわかっていた。
それでも、同じ舞台の上に立てるということに、女は満ち足りた気分だった。
佐伯歩の手で開かれた有沢知美の心のドアは、始終開け放たれていた。
それもそのはずだ。
扉の開き方も知らなかった女が、閉め方や、開閉の調節などできるはずがない。
そのおかげで、鳴海悠が有沢知美の心の中に入り込むことも、
確かな手応えは感じようとも、達成感を得ることはできないほどに容易だった。
偶然を装って出遭い、積極的に有沢知美に関わっていけば、
さほどの苦労もなくすぐに、擬似恋愛ならぬ、擬似友情は出来上っていた。

