「大阪には帰らないのか?」

パパが聞いた。

「んー、こんな足で帰るのもなあ…」

光さんの返事は重い。

「今、マンションに帰って一人で色々せなあかんって思うだけでも気が重いのに…
帰る気、起こらんわー…」

光さんのテンションは口を開く度に落ちていってる。

「誰か暇な奴、手伝ってやれよ」

祥太郎が三つ子に向かって言った。

「私は全中もあるしクラブ選手権も近いから忙しい」

桜は新体操の世界で、今、一番の注目株だ。

あたしから見てもスタイルいいし、この前にあった試合の映像を見ても確かに上手い。

はっきり言って、暇なんかない。

今日はたまたま、通っているクラブが休みだから家にいるけど、普段は9時を過ぎないと家に帰ってこない。

桜の付き添いはパパやママではとてもじゃないけど追いつかないので隣に住む彩子ママに行ってもらっている。

実の孫でもなんでもないけど、彩子ママは本当のおばあちゃんみたいに三つ子に接してくれる。

ま、あたしにとっては本当のおばあちゃんだけど、桜に対する接し方の方が本当のおばあちゃんみたい。

「じゃあ、泰樹は?」

「音楽作るのに忙しい」

泰樹は泰樹で作曲したり、アレンジしたりが趣味なんで。

たまにギター片手に路上ライブをしたり、普段は家でピアノ弾いたり、PCで音楽作ったり。

最近は桜の音楽を担当したり。

色々忙しいみたい。

「知樹…」

「イヤ」

祥太郎が名前を言うのと同時に知樹は拒否した。