とある平日。梅雨も過ぎ、日差しに蒸し暑さが出てきたよく晴れた日。


「旬くん、ずいぶんしっかりしてきたね」

「ふふ、かわいいでしょ〜♪でもね、母乳をなかなか飲んでくれなくて…ミルクのほうがいいみたい」

「あぁ〜ぅう!!!」(是非、ミルクにして下さい!!!)


春瀬旬(はるせしゅん)(生後36日目)。ただの赤ん坊のようで、そうではない。未練の有りすぎる死を迎えた俺は、転生によってこの世にもう一度、生を受けた。前世の記憶を引き継ぎ生まれ変わり、すぐにでも恋人との再開を果たすはずが…


「どうしたの〜?旬くん元気でちゅねぇ♪」


姿は赤ん坊でも、ココロはお年頃の16歳。こんな生活を望んでいたわけではない。にこにこと近寄ってくる母親は、丁寧に股のボタンを外し始めた。


「ん〜?シッコ出たのかなぁ?」

「うー、あー!!!」(あ!!出てないです、勝手に見ないでください!!!)


逃げ出したくなる毎日を送っています。

新しい父親は若社長らしく、いつもビシッとスーツを着たできる男。そして母親はいつも楽しそうに鼻歌を歌い、怒りという感情を知らないような穏やかな人だった。前世の父親は鉄工所勤務で、母親はスーパーで働いていたっけ。前の生活とは違いがありすぎる環境だ。


「旬くん、眠くなっちゃったかな?」


若くて、綺麗な人。この人をかーちゃんなんて呼べる訳がない。自分も一応、男であるから嬉しい気持ちがないと言えば嘘になるが、戸惑いも多かった。新生児の時は目がよく見えずぼやけていて、自力で動くこともできなかったので世話をされるがままであったが視界がクリアになり見えるようになったら恥ずかしさが勝る。

まだうまく力が入らない手足。同じ姿勢でしかいられない身体。発音なんてできず意思疎通ができない。
泣くか寝るかのどちらかしかできないなんて…(こく)すぎる。
あとどのくらい経てば自由に動けるようになるのだろうか。そればかり毎日考え、なにもしない長い毎日を、指折り数える日々が続いた。