鰯の魚群を追い掛けてると、彼の口笛が聞こえた。

昨日は会えなかったから、あたしは嬉しくて、嬉しくて。

何度も太陽に向かって跳ねながら、いつもの海岸に泳いでいった。

「ごめんな、昨日は来れなくて。」

あたしは首を振って彼の手に擦りよった。

いいの。

だって会えたもの。

あたしはウキウキと彼を見つめた。

何して遊ぶ?

潮がいいから、可愛いお魚が一杯いるの。

ね、ね、早く行こうよ。

急かすあたしの鼻先をなでると、彼は困ったように笑った。

アクアマリンみたいな瞳が、ふわりと優しく揺れる。

「ごめんな、違うんだ。今日はお前に会わせたい人がいて。・・おいで。」

彼がそう言って手を延ばすと、岩影から光の糸のような髪をなびかせた、人間の女の子が現れた。

「ホントに野性のイルカとお友達なのね、驚いたわ。」

彼女には足場が悪いのか、何度もつまずきながらこちらに向かってくる。

彼は笑いながらあたしから離れると、彼女の手を取って支えた。

「こんにちは、イルカさん。」

眩しいくらいの光を纏って、彼女は天使みたいに微笑んだ。

あたしは。

あたしは、なんだか、混乱してしまった。

今まで輝いていたリーフが。

いつもより柔らかく感じた優しい風が。

よく分からなくなって、彼女の指を避けるように、じりじりと後ずさりした。