あたしは、またひとりぼっちになってしまった。

外の海はリーフの中よりも、深く、暗く、冷たかった。

寂しい。

寂しいよ。

うつろに泳ぐあたしの前方を、銀色のカーテンが猛スピードで横切っていった。

鳥と大きな魚に追われた子魚の群れだ。

いつもなら、あたしも飛び込んでいくのに。

そんな気持ちにはなれなかった。

最後に見た、彼の傷ついた顔。

そればかりが頭から離れない。

だけど、忘れなくちゃ。

彼女と彼は、とてもお似合いだった。

だから、早く忘れてしまおう。

ひとりだって平気。

だって、あたしは強いもの。

とっても、強いもの。

あたしは、泡になって消えたりしないわ。

そうよ。

むしろよかったじゃないの。

今ならまだ元に戻れるわ。

あのリーフのことは忘れて、昔みたいにシャークと喧嘩して・・・・ひとりで強く生きていけばいいんだもん。

・・・・・ッ・・・・・!!!

あたしは、尾の筋肉が切れてしまいそうなほどに加速して、空の高みへと跳ね上がった。

水しぶきの向こう側で、かすんだ太陽の光が、ぼんやりとあたしを包みこんだ。

もしも、そうできたら。

簡単に忘れる事ができたなら、どんなに幸せだろ。

いつの間にか、彼への思いは想像以上に膨らんでた。

胸が痛いよ。

顔が見たい。

声が聞きたい。

あたしに優しく触れて、鼻先にキスしてよ。

親友じゃなくて、恋人になりたかった。

神様、どうしてあたしはイルカなのかな。

どうして人間の女の子にしてくれなかったの?

こんな気持ちになるのなら、いっそ・・・・!

・・・・・・・・・・・・・ううん。

あたしが、決めたことだもの、これで、良かったんだ。