彼女は顔を上げた。
「わたし、橘サヤカって言います。あなたは?」
「野谷マサキです」
「マサキくんね。
わたしね
ほんとうに
ちゃんとお礼がしたいの。
今日大事な用事とかある?」
今日はバイトがあった。
でも休もうと思えば休むことはできる。
「なんとかなります」
とおれは言った。
「よかった……
あなたのような
優しい男性もいると
わかって……
ほんと……」
彼女はまた俯いて
涙を流しはじめた。
こういう傷って
時間が解決するしかないんだろうか。
それとも
柔らかい腕の皮膚を
鋭くとがった金属で引っかいた跡のように
いくら時間が経っても
消えない傷として
いつまでも心に残り続けるのだろうか。
いつか消えてくれればいいのに
とおれは願う。
しかし
それは難しいのかもしれない。

